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RAクロニクル RAとImmunology
語り手 慶應義塾大学医学部 内科学教室 リウマチ内科
教授 竹内 勤 先生
RA治療の結果を変えうるT2T
RA年表 図
目標のある治療(T2T)で長期的なアウトカム改善を目指す
 

 Treat to Target(=目標達成に向けた治療、略称T2T)は、日常診療において治療目標を明確にし、戦略的に治療アプローチを展開する考え方、取り組みです。高血圧や糖尿病などでは早くからT2Tが実践されてきました。目標達成に向けた治療ができれば、目標がないままの治療に比べて合併症が減るなど明らかに長期的なアウトカム(=治療の結果として疾患の進行度)が改善します。それぞれ血圧やHbA1cといった共通の評価基準が周知されたことが、T2Tの普及を後押ししたのだと思います。
 一方、RAに関しては病態の多様さもあって、血圧やHbA1cのようなシンプルな尺度で活動性を評価し、T2Tを行うのは難しいと考えられていました。しかし近年、RA治療においてもT2Tを求める声が高まり、T2T Initiativeが主導して世界的に共通の目標を設定し、その達成に向けた治療戦略を普及する活動が2008年に始まりました。
 RA治療におけるT2Tの目標は、関節破壊を抑え、身体機能障害をなくすことで長期のRAの経過を変えること、つまり患者さんの長期的なアウトカム(QOL、日常生活動作など)の改善です。T2T Initiativeではその実現を見据えた治療目標を、「臨床的寛解の達成」であると明言しています。

世界のオピニオンリーダーに患者代表らも加わり検討
 

 T2T Initiativeの発足当初、欧米から、世界のRA治療をリードする医師と患者20名余が集まりSteering Committeeを立ち上げ、RA治療を改善して患者さんが長く健康な状態を保つための考え方(T2Tリコメンデーション)の原案を作りました。その際、参考になる過去の研究を厳密に解析し、T2T Initiativeの活動の裏づけとなる科学的な根拠(エビデンス)を確認しました。続いて、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、日本、オーストラリアといった世界中のエキスパートの医師や、看護師、患者さんの代表が加わり、総勢60名以上のT2Tコンセンサスグループが原案を叩き台にして、T2Tリコメンデーションの考え方から一言一句の選択まで詳しく討論しました。最終的にまとまった内容は、RA治療における世界共通の目標、治療の実現を促す提言として英語の論文になり2010年に発表されています。
 2011年3月現在、T2T Initiativeの活動は65か国で展開しており、論文は日本語など各言語に翻訳されました。普及活動の一環として、2009年3月と9月により広い地域の医師を対象に説明会を開催していますし、2010年からはヨーロッパリウマチ学会(EULAR)などに合わせて各国の医師がT2T Initiativeの活動状況を話す会議を開いています(図)。


図 T2T Initiativeのマイルストーン(2008年10月〜2009年12月)
竹内 勤先生ご提供による
T2Tに取り組むための基本的な考え方
 

 T2Tリコメンデーションの内容は、「T2Tの基本的な考え方(4項目)」と「10のステートメント(=強く勧められること)」で構成されます。まず、T2Tの基本的な考え方(表)は、今日のRA治療において疑問を差し挟む余地のない共通の考え方であり、同時に10のステートメントの前置きと言えるでしょう。原案の内容を継承し、言葉の吟味以外は修正を行っていません。
 基本的な考え方の中で最も重要なのはAの項目です。すなわち、『関節リウマチの治療は、患者とリウマチ医の合意に基づいて行われるべきである』ということです。患者さんには、治療の選択肢についてベネフィットとリスクを知るだけでなく、医師と一緒に治療を選択する行動が求められます。

重要な10のステートメント
 

 RA治療のT2Tを実現するための10のステートメントは、やはりどれも外すことができない重要項目です(表)。表の上のほうから大まかに説明すると、まずRA治療で最も重要なのは治療目標を臨床的寛解に定めて、それを達成することです(患者さんの状態に応じて、ときには低疾患活動性が当面の目標になります)。続いて、長期にわたって健康状態を保つという目標を達成する治療を改善するために、RAの状態を小まめに評価して、寛解を達成するのに適切な治療法に変更する、状況を記録することが求められます。また、設定した治療目標を変えずに達成を目指すこと、達成できたら長期的に維持することが重要となります。具体的に言うと、寛解を達成したら、次は「寛解の維持」が重要だということです。さらに、合併症なども考慮しなければいけません。このような治療の考え方を患者さんに説明し、医師と患者さんが共通の目標をもって治療に取り組むことが大切なのです。
 T2T Initiativeの活動を通して、寛解を目指すT2Tが標準的な治療の考え方として打ち出され、世界で広がりつつあります。T2Tをリウマチ専門医に限らず、専門ではない医師も、さらに患者さんとも共有し、T2Tの実践を通してRA治療を改善していくことが大切です。特に治療を担当する医師と患者さんが、同じ治療目標に向かって治療に取り組む必要があります。また、T2T Initiativeの活動が医療従事者全体に、患者さんの周囲に、さらに社会や行政まで及ぶことにより、寛解を目指す厳格な治療(tight control)を標準化し、社会全体で患者さんの長期的なアウトカムを改善できるだろうと展望しています。T2Tジャパン(代表:竹内 勤)もそこに活動目標を据えて、T2Tに関する情報を今後積極的に発信していきたいと思います。


表 T2Tリコメンデーション
基本的な考え方
  1. 関節リウマチの治療は、患者とリウマチ医の合意に基づいて行われるべきである。
  2. 関節リウマチの主要な治療ゴールは、症状のコントロール、関節破壊などの構造的変化の抑制、身体機能の正常化、社会活動への参加を通じて、患者の長期的 QOLを最大限まで改善することである。
  3. 炎症を取り除くことが、治療ゴールを達成するために最も重要である。
  4. 疾患活動性の評価とそれに基づく治療の適正化による「目標達成に向けた治療
    (Treat to Target;T2T)」は、関節リウマチのアウトカム改善に最も効果的である。
10のステートメント
  1. 関節リウマチ治療の目標は、まず臨床的寛解を達成することである。
  2. 臨床的寛解とは、疾患活動性による臨床症状・徴候が消失した状態と定義する。
  3. 寛解を明確な治療目標とすべきであるが、現時点では、進行した患者や長期罹患患者は、低疾患活動性が当面の目標となりうる。
  4. 治療目標が達成されるまで、薬物治療は少なくとも3ヵ月ごとに見直すべきである。
  5. 疾患活動性の評価は、中〜高疾患活動性の患者では毎月、低疾患活動性または寛解が維持されている患者では3〜6ヵ月ごとに、定期的に実施し記録しなければならない。
  6. 日常診療における治療方針の決定には、関節所見を含む総合的疾患活動性指標を用いて評価する必要がある。
  7. 治療方針の決定には、総合的疾患活動性の評価に加えて関節破壊などの構造的変化及び身体機能障害もあわせて考慮すべきである。
  8. 設定した治療目標は、疾病の全経過を通じて維持すべきである。
  9. 疾患活動性指標の選択や治療目標値の設定には、合併症、患者要因、薬剤関連リスクなどを考慮する。
  10. 患者は、リウマチ医の指導のもとに、「目標達成に向けた治療(T2T)」について適切に説明を受けるべきである。

Smolen, J. S. et al.:Ann Rheum Dis 69(4):631, 2010
竹内 勤:治療学 44(10):1081, 2010


(Vol.8-2に続く)

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