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RAクロニクル RAとImmunology
語り手 慶應義塾大学医学部 内科学教室 リウマチ内科
教授 竹内 勤 先生
RA治療のゴールが変わった
RA年表 図
「早期診断」が可能にする、関節破壊のストップ
 
 以前は、RAを発症しても最初のうちは痛みや腫れがあるだけで、関節の破壊が進むのはずっと後、10年くらい経ってからだろうと考えられていました。しかし、発症してから1〜2年のごく早い段階で、関節破壊が進むことが明らかになり、できるだけ早い段階で治療を始めることが大切だということが分かっています。

早期RAに対する治療
田中良哉:「いきなり名医!関節リウマチは治せる時代に -もう“不治の病”ではない-」
第5章 Q26 3種類のTNF阻害薬はどう違う?
川合眞一編、日本医事新報社 pp105,2009,jmedmook03
 しかし、これまでのRA診断基準では、早期の患者さんをきっちりとRAと診断することは難しいというのが実情です。これまでわたしたちが使ってきた診断基準は、1987年に米国のリウマチ学会で作り直された基準で、ACR(エーシーアール)1987年基準と呼ばれています。このACR1987年基準では、たとえば発症から10年ほど経った患者さんであれば、この基準に当てはめることで、リウマチの専門医でなくとも、はっきりと診断ができます。しかし、この基準では、関節の腫れが3つ以上あることや、朝のこわばりが1時間以上続くこと、腫れが左右対称であることなど、関節リウマチの特徴がかなりはっきり出ていることが条件となっていますので、発症から半年とか1年とかの、ごく早期の患者さんではRAと診断をつけられない場合が多いのです。

米国リウマチ学会の診断基準
Arnett, F.C. et al. : Arthritis Rheum 31(3):315, 1988.
Copyright(c)1998 John Wiley & Sons, Inc.
新しい診断基準は、実用に向けて検討中
 

 そこで世界的に「より早くRAを診断できるようにしよう」という機運が高まり、2009年に新しい診断基準が発表されました。米国のリウマチ学会(ACR;エーシーアール)とヨーロッパのリウマチ学会(EULAR;ユーラー)が共同で作成したので、ACR/EULAR(エーシーアール・ユーラー)の新基準と呼ばれています。

 この新しい基準では、関節の腫れが1つ以上あって、他の病気でないことがわかっている前提で、RAと診断できます。ACR基準では、関節の腫れは3つ以上でなければいけませんでしたし、それも左右対称に出ていることが条件でした。しかも、症状が少なくても6週間続いてなければ診断できなかったのです。それが、新しい基準では、患者さんが「痛い」といって来院したとき、スコアリングの基準を満たせばすぐに診断できるのです。


ACR/EULARによる新しい分類基準(2010)
Aletaha, D. et al. : Arthritis Rheum 62(9):2569, 2010
Copyright(C)2010 John Wiley & Sons, Inc.

 ただし、新しい基準には課題があります。新基準は「早期診断」にはとても役立つのですが、他の病気、特に変形性関節症や膠原病、脊椎関節症など、RAと似た症状の病気と見分けるのが難しいのです。現在、日本では、この新基準を日本人の患者さんに使ってどのくらいの診断能力があるのかを検討している段階ですので、実用化には少し時間がかかると思います。


ACR/EULARによるRA分類基準によるアルゴリズム(2010)
Aletaha, D. et al. : Arthritis Rheum 62(9):2569, 2010
Copyright(C)2010 John Wiley & Sons, Inc.
Tight controlを合言葉に、小まめな治療の評価を
 

 将来的に、新しい基準でRAの早期診断が可能になれば、今までよりずっと早い段階で、MTXや生物学的製剤などのRAにエビデンスのある薬剤を使えることになると思います。

 そして、薬物治療にはtight control(=厳しくコントロールする)という考え方が重要です。わたしたち医師は、漫然と1年、2年と同じお薬を使い続けるのではなく、1〜3ヶ月ごとに小まめに疾患活動性をチェックして、今の治療法でよいのか、別の治療法に変えるべきなのかを考えていかなければいけません。Tight controlを行って、寛解の状態に持ち込むことができて、さらにその寛解の状態が十分な期間にわたって維持できれば、将来的には薬剤を止めることもできるかもしれません。

 また、テーラーメード医療という言葉が最近よく聞かれますが、RAの領域においても、この研究は進められています。RAの患者さんの遺伝子を解析して、膨大な情報を集め、どのような患者さんにどのような薬剤が効くのか、効かないのか、あるいは副作用が出るのはどんな患者さんか。そうしたことが徐々に明らかになってきています。「この人にはこの治療がいい」と断言できるところまではまだまだですが、「この患者さんは治療をしないままでは関節破壊が進行して、日常生活がままならなくなる」という、いわゆる予後の悪い方というのをある程度は予測ができるようになってきました。今後は、日本でもこうした研究結果を踏まえて、将来的に関節破壊が起こりやすい方とそうでない方に分けて、それぞれ適切な治療が行われるようになっていくと思います。

医師と患者さん、社会が三位一体で、寛解を目指す
 
 生物学的製剤が使えるようになった前後で、もっとも大きく違うのは、わたしたち医師が寛解(=症状が消失した状態)をはっきりと定義できるようになったことです。
生物学的製剤を導入する前は、実際に寛解にまで持っていける患者さんの数が圧倒的に少なかったので、寛解はあくまでイメージであり、漠然とした概念にすぎないもので、いまのように数値で定義する類のものではありませんでした。

 それが、臨床経験が増え、全例調査の結果が明らかになって、副作用などの安全性に関することが分かってくると、少し自信をもって生物学的製剤を使えるようになってきた。そして、もう少し治療の目標を高いところに設定してもよいのではないか、というところまできて、いま私たちの治療のゴールは寛解になっています。以前は、寛解はある一定の患者さんだけの目標だと考えられていましたが、いまは垣根なく、ほぼすべての患者さんが目指すことのできる現実的な目標になってきている。それが実感です。

 RA治療の進歩はきわめて早く、5年前の治療が古いというのは当たり前で、1〜2年前の治療まで新しいとはいえない、そんな日進月歩ぶりです。そしていまや治療法だけでなく、診断方法まで変わろうとしています。極めて流れの速い領域です。

 これからのRA治療は、医師が最新の情報をキャッチする、というだけでなく、その情報を患者さんと共有して、共通の治療目標に向かって進んでいく、そういったものになると思います。RA患者さんの数自体は多くはないかもしれません。しかし、ここまで医療が進歩して、治癒を目指せるかもしれないという状況。だからこそ、いま一歩、医師と患者、そして社会全体が三位一体となって、RAに立ち向かっていく姿勢が必要なのです。

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